夕暮れ

久しぶりの投稿です。
  

プーケットに来ています。
真っ青な空の下、涼しい海風に吹かれながら、ふかふかのタオルの上で横になっていると、2015年がとても素敵な年だったように思えてきます。
大変なこともたくさんあったし、時々泣いたりもしたけれど、でも、総じて幸せだなあと感じるのです。

突然ですが、この記事をもって、GOOD AT TOKYOでの私の投稿はおしまいとなります。
これまで記事を読んでいただいた方々、ありがとうございました。

最近更新が滞ってしまっていますが、こちらのブログは今後も続けていく予定なので、よろしければたまに遊びにきてください。
もふごはん
  

昨日と変わらないようで、確かに違う夕暮れです。次に日が昇ると、また1から始まるのです。時間の進む速度は変わらないのに、年明けという区切りはなんだか不思議。人生の終わりに少しずつ近づいていることを実感して悲しくなると同時に、新たな始まりの予感が希望となって背中を押してくれます。

どうか、皆様の2016年が素晴らしい年でありますように。


ならんですわって

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隣で眠る人の体温を感じながら、今日もこうして平和な夜を迎えることができてよかった、と思う。どうか明日も同じ夜がやってきますように、と。

終わりは必ず訪れるという事実がいつも頭を離れなくて泣きそうになる。今のこの一瞬が途方もなく尊いものに思える。終わりに直面するのは数十年後なのか、はたまた明日なのか。一人で眠る夜はいやだから、できれば私が先に骨になりたい。淡い悲しみに沈みながらそっと目を閉じて、聞こえる小さな寝息に安心する。少なくとも今夜は、私たちの心臓は昨日と同じように動いている。

久しぶりのデートの待ち合わせ前に感じる高揚とか、夜通し電話で話してほっこりあたたまる気持ちとか、そういう類のものを手放したことを後悔していない。きっと人生はあっという間に終わってしまうから、残された時間をできるだけ近くで過ごしたい。暇さえあればいつも一緒にいるから、もう会話の種を見つけるのが大変なぐらいだけれど、それはとても贅沢な悩みだ。

二人で暮らし始めて最初によかったと思ったことは、キャンプへ出かけるのが楽になったこと。今まではお互いの家から大荷物を持ち寄らなければいけなかった。IKEAで大きな棚を一つ買い、新居で一緒に組み立てて、すべてのキャンプ道具をぎゅうぎゅうに詰め込んだ。私のお気に入りの棚。部屋に、「私たちのもの」が少しずつ増えていくことが嬉しい。

何時に家に着く?っていつもしつこく聞いてごめんなさい。お味噌汁もおかずも、まだ香りが逃げずあたたまった状態で食べてほしくて、ちょうどいいタイミングで火を入れたいというわがままなの。タイミングを見誤って、帰ってきてもまだごはんができていない、なんていうこともよくあるけれど。少なくはない量のごはんをぺろりとたいらげてくれる姿を眺めていると元気になれる気がする。

調理の音だけが響いていた部屋が、がちゃっと鍵のあく音をきっかけにして心地よくゆるむ瞬間が好き。実家でも、父親が仕事から帰ってきた途端に家のあたたかさが増したなあ、なんて思い出す。「おかえり」とキッチンから顔を覗かせる瞬間が、私の一日の幸せのピークかもしれない。

深夜、ソファに並んで座り、缶チューハイを片手にだらっとテレビを観る時間が、そんなごくごく普通の日常が愛おしい。一緒にいればそれはもう色々なことがあるけれど、二人でいるこの部屋を心地よいと感じられるかぎり、何が起きたって平気だと思う。


せかいの色

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何もかもが色褪せて見えて、泣き暮らす日々が続いた。

仕事をして、お金がないので毎日惰性で自炊をして泣いて、浴室でシャワーを浴びながら泣いて、夜はあまり寝付けず、悪夢を見て目を覚まし、仕事をして、泣いて、食べて、泣いて、布団にもぐって、の繰り返しだった。

生きることが好きで死ぬのを恐れていたはずなのに、ふとした瞬間に生への執着をなくしてしまう最近の自分が悲しくて泣いた。気を抜くと、自分が息を止めてしまいそうで怖かった。なくしてしまった大事な人のことを毎日考えて、彼女が残した言葉を何度も何度も反芻した。彼女の考えていたことがようやくわかったような気がして、何もできなかった自分が許せなくて泣いた。そんな風に自己憐憫の只中にいる自分の狡さが気持ち悪くてまた泣いた。

負の連鎖だった。自信をなくした自分が惨めでさらに自信をなくす。卑屈になることが人付き合いにも悪影響を及ぼして、さらに卑屈になる。頑張りたいのに頑張れない。こうあらねば、と考えていた理想像からますます遠ざかる。今まで楽しい、楽しそう、と思っていたことが何もかも嫌に思えて八方塞がりでどこにも行けず、始終胸が苦しくて、ただ立ち尽くした。

どうして突然こうなってしまったのか直接的な原因はわからず、けれども自分が何に苦しんでいるのかはよくわかっていた。苦しみの元を取り去ることは難しく、できることは自分の考え方を変えることぐらいしかないと思った。けれども考えなんていうものはそう簡単には変わらず、しんと静まり返った部屋に一人でいると壊れそうだった。

会社でパソコンに向かいながら、突然ほとんど息ができなくなって、ああもうだめだと立ち上がってトイレに駆けこんで泣いた。死にたい、という言葉が私の頭の中を揺さぶってそれが悲しくて泣いた。私は生きたいのに死にたい。生きなければいけないのに死にたい。なんで生きなければいけないんだろう。そんなことをぐるぐる考えていた十五分の間に、祖父が亡くなった。

宮城を訪れたのは六年ぶりぐらいだったか。祖母は一回り小さくなっていて、幼かった従兄弟は中学生と大学生になっていた。家族とは二ヶ月ぶりに会った。離れて暮らしていると実感する。皆少しずつ老いていく。生きたくても死にたくても、毎日が楽しくても苦しくても。

母親に、何に苦しんでいるのかを打ち明けてみた。きっと一生誰にも言えないと思っていたけれど、一言口にすると、堰をきったように言葉が溢れでた。人に話すと少しだけ客観視できたような気がした。

東京へ戻ってきて、このままじゃいけない、と思った。なんとかしないと、と。ネイルをしたり、髪を切ったり、美味しいものを食べたり、マッサージに行ったり、お休みをいただいて温泉に行ったり、最近はそんな儀式を重ねて気持ちを切り替えてあげようと試みている。以前の自分はもうこの世にいない、ぐらいの心持ちでいかないと断ち切れないような気がする。

環境も色々と変わり、楽しいと思える時間が少しずつ増えてきた。目を腫らすこともなくなった。私の世界がもっと色づきますように、と祈りながら丁寧に丁寧に一日を過ごせるようになった。必ず老いて死が訪れるなら、泣いていないで笑っていよう、と今は思う。


引き算の音

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和食を作る時間の静けさが好きだ。

落し蓋をした鍋が、ぐつぐつ、と時計の針のようにやさしく時を刻む。油を使うことが少ないため、じゅーっと勢いの良い音がキッチンであがることはあまりない。昆布から出汁をとる。塩蔵わかめを水で戻す。出汁に白味噌を溶き入れる。料理が食卓に並ぶまで、時間は穏やかに流れていく。

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包丁が木のまな板を叩く、ことこと、という音に、子供の頃の記憶が呼び起こされてはっとする。東京の端っこ、住宅がみっしりと立ち並ぶ細道を抜けて家のドアを開けると、母親はこちらに背を向けて台所に立っている。大きな鍋からは湯気が上がり、醤油と味醂の甘辛い香りが鼻先をくすぐった。ことこと、というやさしい音とともに、まな板の脇に寄せられた人参の山が少しずつ高さを増していく。誰かのために黙々とごはんを作る背中はあたたかい。

日本人にとっての和食は、きっと郷愁の味だ。胸がきゅっと切なさで満たされるのが好きで、私は毎晩のように醤油と味醂を使った料理を作る。ぐつぐつと煮立ち始めたら、鍋に覆いかぶさるようにして湯気に混じる香りを楽しむ。料理の醍醐味の一つは、こうして香りを存分に堪能できることだ。火を入れた醤油やにんにく、異国情緒溢れるスパイスの香りは、食卓よりもキッチンでいただく方が美味しいかもしれない。

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週末に観た「ジュリー&ジュリア」では、ジュリアが「洋服を買うのと同じぐらい、食材を買うのが楽しいわ!」というようなことを言っていたけれど、私も同感である。最近は醤油に惚れ込んでいて、特産品展なんかに行くと、あちらの醤油もこちらの醤油も喉から手が出るほどほしくてたまらない。醤油に思いを馳せていると、フジロック帰りに寄った越後湯沢駅の醤油売り場がふと恋しくなる。あそこでは様々な醤油の味比べができるのだ。

新しく手に入れた調味料をどう味わい尽くそうかとあれこれ考える時間は幸せだ。先日はお土産に石川県の魚醤を買ってきてもらった。もちろん、出発前からせがみたおしたのである。イカが原料で、瓶の口に鼻を近づけると独特な香りがする。手強そうだけれど、どうにかしてこの子を使いこなそう、と心に決めた。なんだか胸がどきどきする。やはり、洋服をもらうのと同じぐらい、調味料をもらうのは嬉しい。

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「和食は引き算」だと聞いた。食材の味を存分に活かし、シンプルな美しさの光る一品を作り上げる。

これは、女性の「引き算メイク」に通じるところがあるような気がする。ファンデーションは厚塗りしすぎないこと、マスカラはダマになるほど重ねないこと。それなら、元の肌が綺麗でなくてはいけないし、元のまつ毛が太く長くなければいけない。元の素材にどれだけ手をかけてあげるかが引き算メイクの極意なのだ。化粧水、乳液、美容液でたっぷりと保湿。まつ毛にもトリートメントで栄養を与える。規則正しく充分な時間の睡眠も大事。

いざメイクを施す段になると、細かな部分に技が光る。透明感のある素肌になるようクマやシミはコンシーラーでぽんぽんと隠し、まつ毛はビューラーで自然なカーブに。顔の周りと鼻の脇にサッとシャドウを入れて、頬骨と鼻筋にはハイライトを。これほど手をかけても、まるで素顔のよう。

上質な素材を、丁寧に下ごしらえする。和食にとって、それが大事なことの一つなのだろうと最近感じる。素朴な見た目のお味噌汁や煮浸しも、口をつけると昆布出汁と鰹出汁の重厚な旨味に惚れ惚れする。この出汁をとるまでに長い長い時間がかかるのだ。

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先週末、初めてふきを買った。板ずりしてからたっぷりのお湯で茹で、茹で上がったら水に漬けて、一本ずつ皮と筋を取り去る。ふきの下ごしらえにはかなりの手間がかかる上に、茹でたばかりのそれはお世辞にも良い香りとは言えず、手を鼻に近づけると顔をしかめずにはいられない。けれども、ふきを握って一人キッチンに立つその時間は、とても愛おしく感じられた。皮を下にすべらせると、つるんと顔をのぞかせる鮮やかな若草色。これで何を作ろう、と頭の中で考えを巡らせる。

しん、と静まり返った家の中で、時間はそっと流れていく。

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【Airbnb×旅】海とビール

3月21日(土)に、代官山で「和」をテーマにしたイベントを開催します。(詳細はこちら

GAT主催のイベントは今回で2回目。当日を心待ちにしながら、メンバー皆で色々とコンテンツを準備しているところです。

コンテンツの一つに、Airbnbさんとの共同企画「東京近郊一泊二日の旅プランコンテスト」があります。メンバーそれぞれが理想の旅プランを記事にし、イベント当日お越し頂いた方々に投票していただく、という企画です。投票に参加された方の中から抽選で一組に「5万円分のAirbnb宿泊券」が当たるチャンスもありますので、ぜひいらしてください!

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私の理想の旅は、江ノ島・鎌倉でのんびりと過ごす二人旅。もちろんメインはごはんとお酒。

一日目は江ノ島へ。片瀬江ノ島駅を出て、潮風を胸いっぱいに吸い込みながら、早速お昼ごはんを食べに江ノ島小屋へと向かう。海鮮の乗った「まかない丼」をいただける人気のお店。ずらりと連なる行列におしゃべりしながら加わる。なにしろ、時間はたっぷりあるのだ。

テラス席で海を望みながら、新鮮な海の幸を味わう。もちろんビールも。

おなかがぽむんと満たされたら、江ノ島の上の方まで登ってみる。木々に囲まれていて、見晴らしも良く、爽快な気分になれる。てっぺん付近の「恋人の丘」にある「龍恋の鐘」を二人で鳴らした後、近くの金網に2人の名前を書いた南京錠をつけると永遠の愛が叶うのだそう。

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散策の途中で江ノ島ビールを買う。歩きまわって少し疲れた身体に、お酒がゆっくり染みわたる。

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上からの眺めに満足したら、今度はくだってごはんを探す。目に飛び込んでくるのは、美味しそうなものばかり。屋台に寄って食べ歩きをするのも楽しいし、食堂に腰を落ち着けて生しらすをつまみにお酒を飲むのも良い。

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江ノ島の見どころは夕暮れ時の美しい景色だと思う。広い空が少しずつ色を変え、波がゆっくりと打ち寄せる。日常のふとした瞬間にこの景色が恋しくなるのだ。

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夜ごはんは珊瑚礁でいただく。待ち時間は長いけれど並んでよかったと思えるお店。異国情緒溢れるロマンチックな雰囲気の店内で、徐々に暗くなっていく空と海を眺めながら美味しい料理に舌鼓を打つ。〆は名物のカレー。

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片瀬江ノ島まで戻り、宿へ。海に近い一軒家をまるまる貸し切りで、1泊1万円。サウナがついていたり、食器や調理道具があるので料理もできてしまう。詳細は下記のリンクから。

テーブルにお酒とおつまみを並べて、夜が更けるまでおしゃべりしていたい。深夜にぶらりと外をお散歩するのも良い。

→ Enjoy great view from Enoshima beac | Airbnb

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二日目は稲村ヶ崎まで出て、ゆっくり温泉につかる。稲村ヶ崎温泉は、鎌倉市で唯一の天然温泉だそう。前日歩きまわった疲れが少しずつほぐれていく。

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江ノ電に揺られて、次の目的地は鎌倉。まずは小町通りを歩いて鶴丘八幡宮へ。

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おなかが空いたら小町通りに戻って、腸詰屋でぷりっと大きなソーセージとビールを注文する。

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近くの鎌倉点心で熱々のあらびき豚まんもいただく。お肉がぎゅぎゅっと詰まっていて美味しい。

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鎌倉駅からわりと離れた場所にある杉本寺は、私が中学生の頃から気に入っている場所である。人が少なく、静かで良い。緑も多くて癒される。

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細い道を上がると、鎌倉の町が見渡せる。ここから見える景色がとても好きだ。

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最後の目的地は由比ヶ浜。小町通りを戻り、鎌倉駅前を通りすぎて、ずっと歩くとやがて海に出る。

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缶ビール片手に砂浜を歩く。やはり、海辺にはビールが似合うのだ。春も夏も、秋も冬も。

江ノ島・鎌倉一泊二日の旅は、これにておしまい。訪れる度に毎回こんな過ごし方をしているのだけれど、何度なぞっても飽きることがない。

今年も早く、あの景色を見たい。

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